TK AUDIOのコンプレッサーBC1。
導入から1年ほど経過したのでレビューです。

概要

TK AUDIOは2008年設立の、比較的新しいスウェーデンの会社。
廉価ながら高品質なコンプレッサー、マイクプリ、EQなどのアウトボード製品を多数リリースしていて話題になっています。
生産は小規模で行っているようで、サイトの情報などを見てみるとほとんどハンドメイドで制作されているような雰囲気ですね。

実は1度、仕様についてどうしても分からないことがあってTK AUDIOのサイトからカタコトの英文メールで問合せをしたところ、なんと社長のThomas “TK” Kristianssonさんから直々に(しかも速い)返信をいただきました。
返信文面もすごく丁寧かつ詳細に記載してださっていて感激。こんな対応してもらえたらファンになっちゃう!

BC1はTK AUDIOが一番最初にリリースした製品で、いきなりヨーロッパで高い評判を得てメーカーの名前が知れ渡ったそうです。
この記事を書いている時点で「BC1」「BC1mk2」「BC1-S」「BC1-THD」という感じで機能強化されたバリエーション版がリリースされています。

”BC”という名前の通り、ミックスのステムとかミキサーの最終段階で全体の音をまとめるためのバスコンプレッサーとしての用途を想定されているみたいですね。盤面のデザイン的に絶対”あのバスコンプ”をリスペクトしている雰囲気ですね。

私が購入したのは初代モデル「BC1」の中古品です。
スタートアップの頃のロットなのかな?
盤面の切り出しや彫刻の(良い意味で)粗削りな雰囲気を見てると、どことなく「ハンドメイドで組みました」っていう雰囲気があります。この感じ、好きです。

仕様

左からスレッショルド、レシオツマミ。
スレッショルドは軽いクリック感があるのでリコール性が高いです。
スレッショルドに「1.5:1」があるのは嬉しいですね。ほんのり味付けをしたいときにぴったり。

スイッチは左からまずハイパスフィルター。これは低域をカットすることで、ベースやキックによる引っ掛かりを軽減してコンプレッションをスムーズにしてくれます。特にドラムのステムや楽曲のトータルコンプとして使うとき有ると無いとでは大違いです。
真ん中は外部入力サイドチェイン。背面に入力端子があり、外部入力でのサイドチェインが組めます。
そしてL+R(モノラルスイッチ)。こんな感じでモノラルスイッチが内蔵されているのはけっこう珍しいのではないでしょうか。

スイッチの右側にはアタックとリリース。アタックも軽いクリック感があるので、ある程度リコール性があります。

VUメーターを挟んで右側にはMake-Up Gain。実質アウトプットボリュームですね。
コンプレッションで叩いた分のレベルを持ち上げることができます。

そのお隣にある2つのスイッチはComp inスイッチとStrainght mute。
Comp inはその名の通りコンプ自体のON/OFFスイッチ。
そしてStrainght muteは後述のブレンドつまみで原音とコンプサウンドをミックスしている際、原音だけをミュートしてコンプサウンドのみの音をモニタリングできます。これ、めちゃめちゃ便利です。
たまーに、ボタンがON(押し込み)の状態でも深さが浅めで光ったりもしないので「あれ、今ONだっけOFFだっけ?」ってなる時があるのはご愛敬です。

一番右はブレンドツマミ。原音とBC1を経由した信号の比率を調整できます。
私はこれができるのを見て購入を決めました。ブレンドができるかどうかで微調整の幅がものすごく広がりますよね。

背面のインプット、アウトプットはXLR。そして外部入力サイドチェイン用の端子があります。
コネクタがしっかりホールドされて安心感があります。

インプレッション

サウンドの印象を一言でいえば「音がイイ感じに、もっちもちになる!」です。(笑)

音色自体は本当にクリーンかつ自然な印象で、積極的に色をつけにいくというタイプではありません。
でもリダクションを深くして潰していくと音の粘りと弾力感が際立ってきます。生演奏の音源はもちろん、デジタルな音も適度にアナログのしなやかさが付与されて、音同士がしっかり絡み合う感じ。特に低音に関してはそれが顕著で、足元をよりしっかり、でも柔軟にしてくれる印象。

リスペクトしていると思われる”あのコンプ”のプラグインといくつか比較してみましたが、方向性は似つつもよりナチュラルでオールマイティといった感じでしょうか。けれども”Glue”と呼ばれるあのコンプの雰囲気は抜群に出ていてとても気持ちいいです。

私はミックスのトータルコンプの他、ドラムのステムとベースによく使います。

ドラムを強めに潰せば張り付いてグッと前に出てくる荒々しさが付加されて、アタック・リリースを調整したときのレスポンスも気持ちいい。アンビエンスマイクに通してルーム感を調整したりするのもいい感じです。

ベースやバスドラの低音は少し重心が下がって腰が据わる感じで、2~3dBリダクションさせるくらいの薄めのコンプでも生音の質感を生かしつつしっかり音のまとまりと「もちもち(笑)」を付与してくれます。

コンプに精通している方ならかなり追い込むことができるのはもちろん、スレッショルドには「AUTO」モードもあって自動的にいい具合のスレッショルドに調整してくれるからものぐさな人にもぴったり。

ミックスのトータルコンプとして掛けるときは、レシオは1.5:1~2:1くらいでほんのりメーターの針が振れるくらいにかけるのが好み。元のミックスを保ったまま、まさに音の隙間を埋める接着剤を流し込むような感じで「もう一声!」な感じのまとまり感をしかり実現してくれます。

特にステムやトータルコンプとして使うときはサイドチェインボタンがあるのも便利。
ローが強いロック・EDM系のトラックで、低音のアタックに引っかかって無駄にパンプしてしまいそうなときONにするとすごくスムーズなかかり方になってくれます。
上位機種はこの内蔵サイドチェインに帯域を調整できるんですよね…それだけでもちょっと欲しいかも。

同じことをプラグインのバスコンプでもできるけど、やっぱりアウトボードを通すと質感が全く違うなというのを体感できます。
デジタルくささを消したい!という時にも有効で、ほんとリダクションメーターが動くか動かないかくらいの設定値でサミングミキサー的に使うこともあります。
単体で聞くと殆ど変わらないけど、ミックス最終段で音圧を詰めるあたりからじわじわ効いてきます。

使っていて思うのは、レシオの設定値の絶妙さとブレンドツマミの使いやすさ。
私は比較的アコースティックな音源を扱うことが多いので、あまり色付けをせず音をスッとまとめられるレシオ1.5:1の存在とブレンドツマミで細かな詰めができるのが本当に重宝しています。

あと、なんだか全体的に発想が「プラグイン的」なんですよね。
DAWでプラグインコンプを使っているときと同じ感じで使えるんです。
シンプルなんだけどすごく考え抜かれたモダンな設計。
人気機種になったのもうなずける気がします。

アウトボード・プラグイン問わず、コンプを触ったことがある方ならすぐに使えるイージーオペレーション。
そして上級者の作りこみにもしっかり応えてくれる万能コンプレッサー。

市場に出回る機会は少ない印象ですが、ぜひ触ってみてください。
とても高品質なコンプレッサーですよ!