モニタースピーカーをFOSTEX NF01AからFocal Shape40に乗り換えて2年くらい経ちました。
だいぶ音の傾向や癖もわかってきたので、改めて振り返りながらレビューです。


概要

Focalはフランスで1979年に設立されたオーディオメーカー。スピーカーはもちろん、ヘッドホンやカーオーディオでも大定番メーカーなので説明は不要ですね。
とてもハイエンドな機材のイメージがあって、私にとっては雲の上のメーカーみたいな印象でした。
最近は低価格帯ながら高品質な機材も多くリリースされて、ここ数年で街中でもFocalのヘッドホン付けた人をよく見かけるくらい一気に広まった気がします。

ShapeシリーズはFocalのラインナップでも比較的新しいシリーズで、発売は2018年頃。
発売時から音が良く使いやすいということで一躍有名になり、一時は国内在庫が殆ど無くなってしまったような時期も。私が購入を考え始めた頃は、お取り寄せ〇カ月待ちという状況になっているのも珍しくありませんでした…。なかなか入荷されないな~って指をくわえてみていたら、タイミングよくアウトレットで売り出されていたものをゲットしたという感じです。最近はもうだいぶ流通も安定したみたいですね。

なぜShape40を選んだのか

買い替えを検討していた時、私の選定基準は「アクティブ型であること」、「フォン・XLR入力どちらもOKであること」「NF01Aよりも少し小さいタイプで30W以内くらいの出力であること」(NF01Aは50Wクラスで私の6帖部屋にはちょっと音が大きすぎた…)、「できれば真っ黒よりは少しモダンなデザインであること」っていうような条件で選んでいきました。

その中で私的最終選抜として残ったのか以下の4強。

・Focal Shape40
・IK Multimedia iloud micro monitor
・EVE Audio SC203
・YAMAHA HS5

このまで絞ったところで、実際に楽器店に行って視聴。

結果的にShape40の音を聞いたときに「あ、これ好き」っていう明らかな直感が働きました。なんとなく、これまで長い間使い続けていたNF01Aと大幅にキャラクターが違うわけじゃなく、でもしっかりとアップデートされたような音っていう感じがしたんです。デザインもシックでかわいいし、大きさも元々5~6帖のスペースを想定されている(スピーカーとリスニングポイントの設計想定はなんと60cm!)ということなのでジャストサイズ。それでもしっかり広い帯域を出してくれるパワーがあるのがポイント高かったです。
あと、ちょうど18年末頃のサンレコに掲載されていた「プロに訊く・今年何買った?」的な特集でクラムボンのmitoさんがShape50を購入されていて、その理由として「まわりスタジオのエンジニアさんがよく使っている」っていうコメントがあったり、有名なエンジニアの方がSNSのレビューで絶賛されていたりといったのを見たのも背中を押されるきっかけになりました。

その後もしばらく悩んで、Shape40を買ったあとにも他のスピーカーを試聴させてもらったりしたんですが(笑)、結果的にShape40を選んだのが大正解だったと思っています。

因みに最後まで悩んだ競合はiloud micro monitor。なんとなく私の好みだと「補正された音」っていう印象が拭えなかったのと、曲作りとかの段階ではテンションが上がりそうだけどミックス等で緻密に判断を行うっていうタイプの音ではないのかなと思い、今回は見送りました。
でもshape40と価格帯が倍以上違うのに、ほんと良いスピーカーです…。予算が3~4万円くらいしかないという方にはコレ一択といっていいと思います。ブラックフライデーとかだと2万円台になることもあります。売れ行きがすごいみたいですね…音響系・音楽系の専門学校の実習用の機材に導入されたりしているような記事も見ました。中田ヤスタカさんもモバイルセットとして使ってるとか。

IK MULTIMEDIA / iLoud Micro Monitor
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インプレッション

以前まで使用していたNF01Aとの比較と併せて、現在はEclipse TD-M1も併用しているのでそのあたりと切り替えてみた感想です。
因みにオーディオインターフェースはAPOGEE QUARTET、再生はProTools12で、24bit/48khzの音源を再生して比較しています。

自宅でNF01AをShape40に載せ替えて初めて再生した時、「魔法がかかったような驚き」や「見える世界が変わったような衝撃」みたいなものありませんでした。
それは裏を返せば、発売から長い間定番モニターの1つになったFOSTEXのNF01Aと載せ替えても大きな違和感がないということで、とても優秀なスピーカーであるということの証ともいえますね。

色々な音源を流しながら切り替えて試していくと、だんだん傾向の違いが分かってきます。

全体的な印象

傾向としては、あくまでナチュラルサウンド。なにか色をつけるような印象はありません。
リズムに注目して聴いていると、どちらかといえばバンドサウンドやアコースティック向きな傾向のトランジェント感です。音の立ち上がりやスピードが、耳で聴いた音そのままで再現されているイメージ。
EDMなどクラブトラックでも全く問題ないレベルだと思うけど、ソリッドで刺さるような感じは無いので、トラックメイクの段階でテンションがアガる音で作業したい!というタイプの方にはちょっと物足りないかもしれません。でも本体内蔵のEQで好みの音色に詰めることもできるので、ほぼ何でも来いの万能選手といっていいと思います。

低音の再生感

スピーカー本体の大きさからすると、低音域がものすごくしっかりと出てきます。でも、もたついたりボワっとする感じではなく、締まった低音でとても持ち良いんです。

同期デビュー(?)のiLoud Micro Monitorもサイズのわりに低音がものすごくしっかり出ることで有名ですが、それとはまた違った低音の出方です。やっぱりスピーカーの口径が大きいので、すごく余裕を感じますね。特にマイク録音された生楽器の低音は、音の余韻の見え方や解像度、空間の再現性が段違いです。

また、低音に限ったことではないんですが、ボリュームを大きく変えても音のバランスがそのままなんです。これは本当にすごい。

大体のスピーカーってボリュームを小さくすると低音が見えなくなってしまったりしますが、Shape40はかなりボリュームを絞っても低音を含めたバランスそのままで音が小さくなるんです。
NF01Aだと夜中とかに小さいボリュームで作業しなきゃいけない時にローが見えなくてヘッドホンと併用しなきゃいけないっていうストレスがけっこう大きかったんですが、Shape40に変えてから一発解決しました。


パッシブラジエーターの効果がすごい

Shapeシリーズの特徴として、このクラスでは珍しいパッシブ・ラジエーターを搭載しています。
これはスピーカーの横についているウーファーのような部分。前面のコーンよりもややゴムっぽい材質です。
このパッシブラジエーターのおかげで正確且つ豊かな低音が再現できているんですね。私はどういう仕組みなのかは全然分かりません。(笑)

そして、もう1つの効果が「壁に近い場所に設置してもサウンド(特に低音)への変化が小さくなる」ということ。通常モニタースピーカー(特にバスレフ型)は壁からある程度離さないと低音がボワついて滲んでしまうことが知られていますが、パッシブラジエーターは一般的なバスレフ型と比べて低音への悪影響が圧倒的に小さいという特徴があるそうです。
実際に私も設置時に壁からの距離(ほとんど隙間なし~80cmくらい)や位置を変えながら比較してみたのですが、NF01Aの時よりも明かに音の変化が少なかったです。もちろん影響がゼロではないけれど、実際の作業には全く問題ありません。ケーブルを変更したり体調の良し悪しの方がよほど影響が大きいっていうレベルです。

壁から離して設置するのに越したことはないけど、部屋が狭くてそうもいかないという方もすごく多いと思うので、こういった設計は本当にありがたいですね!

音の奥行・解像度

解像度はものすごく高いです。音の分離感・定位が明らかにクリアになりました。

NF01Aもエントリー~ミドルクラスのモニターとしてはものすごく定位感のよいスピーカーだったと思うけど、「一応ヘッドホンでも確認しておいた方がよいかな?」って思うようなポイントが出ることもあって。それがShape40だとしっかり判断できる安心感があります。

音の奥行については、NF01Aより少し深いという印象。
空間再現性の化け物・TD-M1と比べるとさすがに劣る感じはありますが、そもそもeclipceシリーズが異常なだけで(笑)それでもこの価格帯とは思えないくらいの懐の深さを感じますし、横の広がりはNF01Aとは格の違いを感じます。
どちらかといえば、音を”空間”よりも”面”で把握するのに優れている感じかもしれません。
これはほんとに良し悪しじゃなくて完全に「好み」のレベルで、ポップスやロック、デジタルを得意とする方にはShape40のようなサウンドの方が音の判断もしやすく作業性は抜群だと思います。
もちろん、アコースティック音源やクラシックの定点音源などを再生してもとにかくナチュラルなので、緻密な調整を行う際も安心してミックスすることができます。

私的に印象深かったポイント

一番驚いたのはドラムのサンプルを再生した時の音。

ちゃんと「スティックで太鼓を叩いた」という一瞬の音の動きが、目で見えるように分かるんです!
これはドラムに限らす打楽器系全般で感じたことで、アタックのニュアンスの再現性がすごい。スネアやタムの皮が叩かれて音が鳴る瞬間の動きっていうのをスピーカーで初めて感じました…これは鳥肌ものの体験でした。

本体裏についている補正EQ。

私、過去にモニターについているこの類のツマミを調整することは殆ど無かったんですが、Shape40に関しては低音が本当にしっかり出てくるのでローカットを使うべきシチュエーションになる方は多いと思います。
例えばデスクの上などにベタ置きすると底面方向からの跳ね返りで低音が膨らみすぎて濁ってしまう場合があったり。そういう時は内蔵のローカットを気持ち程度に下げると無駄なローが消えてスッキリ聞きやすい低音域になりますよ。

電源を昇圧するとさらに吉!

Shape40を使い始めた頃、とある理由で電源と電圧について見直しを考えるタイミングがあって、初めて昇圧トランスを導入して115V仕様の電源でスピーカーを鳴らしてみました。

結果、大激変! まずボーカルとかのセンター定位音源が更にビシッとセンターに張り付いて腰が据わった感じ! そして元々しっかり出る低域がさらにしっかり出るようになりました。というか出過ぎ!!(笑)
でもやっぱり単純にモワっとするわけじゃなく、中高域も含めて音の張りが出てしっかり鳴るようになったという印象で、先述のローカットスイッチやインシュレーターとの組み合わせで調整をしてみたら、さらにもう1ランクアップしたと言っていいくらいに作業しやすい音になりました。

昇圧トランス自体はピュアオーディオ用とかでなければギターのパワーアンプ等とかでわりとリーズナブルに販売されているので、ぜひ試してみてください。この激変具合には驚くと思います!

SH / SU6 ステップアップトランス
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スタンバイモード機能

Shapeシリーズには、無音時間が一定時間続くと自動的に内蔵アンプが切れて休止状態になるスタンバイ機能がついています。一定以上の音量が入力されると、スタンバイが自動解除されて5秒くらいでまた音が鳴り始めます。
この機能については賛否両論みたいですが、私はTD-M1やヘッドホンと頻繁に切り替えながら作業することもあるし、機材の電源入れたままちょっと休憩のつもりが熟睡…とかいうこともわりとよくあるので、その間省電力になってくれるのは精神衛生的にもとても良いです。

設置性

すごく地味なポイントですが、スピーカー下部のラバーフットがものすごく便利。
DTMデスクの上に直置きして、スピーカー前側に漫画雑誌を敷いて斜め上に向けているという人、意外と多いんじゃないですか?
Shape40の4点ラバーフットはネジ式になっていて、しかもけっこう長いので斜め上・前傾などレイアウトが自由自在。
しっかり耳元を狙えるベストポジションで簡単に設置できます。

まとめ

ざっくりと紹介してきましたが、買う時はほんっっっっっっっっとに、すっごい悩みました!!!
でも、最終的に直感と仕様を信じてShape40にして本当によかったと思っています。
ミドルクラスの魅力的なスピーカーはたくさん出てきてるけど、壊れるまで使い倒したいと思えるスピーカーに出会うことができた感じです。
10万円前後までのミドルクラスのスピーカーの買い替えを検討されている方、Shapeシリーズ本当におすすめなのでぜひチェックしてみてくださいね。