マイクプリアンプの中でも、ちょっと異色なこの機材、ご存じですか?

この手の機材の先駆けになったCloud Microphone社では「マイクアクティベーター」って呼んでるみたいですね。
ほかにも「マイクブースター」とか言われてたり。
響きだけでもカッコいいですね!でも呼び方は統一してほしい。(笑)
知る人ぞ知る感のある機材なので、楽器店でも録音専門コーナーがある所じゃないと実物は置いていない所が多いかもしれません。
というわけで、少しニッチな機材ですがマイクアクティベーター「CloudLifter CL-1」のレビューです。


概要・仕様

マイクの音声信号を増幅してくれる、マイクプリアンプの一種です。
これをオーディオインターフェースとダイナミックマイク( 又はリボンマイク)の間に接続します。オーディオインターフェースからファンタム電源をかけることで、マイクの音声信号をボリュームアップしてくれます。正確には+25dB。ミキサーのフェーダーで見るとけっこう大きな増幅なのが分かると思います。

それだけ。ツマミなども無く、ほんとに信号を固定値で大きくしてくれるだけのシンプル機能。

上位機種ならインピーダンス調整機能がついている物もあって「インピーダンス調整+信号レベルアップ」になります。
インピーダンスの事はちゃんと説明できる自信がないので詳しくは書けないけど、マイクによって設計上最適なインピーダンスというのがあって、それに合わせることでマイクの性能をより高く発揮できたり、逆にインピーダンスを外すことによって音色変化をつけたりできます。詳しく知りたい人は「マイク インピーダンス」とか「マイクプリアンプ インピーダンス」とかで検索すれば面白い記事がたくさん出てくるはず。他力本願!
ちなみに私、CL-1は大きな楽器店で何度か見かけたことはあるんだけど、上位機種のCL-Zは一度も実物を見たことがありません。もちろん持っている人も友達の中ではまだ見たことありません。見かけたらSSR級ですよ。

信号レベルがアップすると、どうなるの? それってミキサーでもできるんじゃない?と思いますよね。
マイクプリアンプという意味ではミキサーとかに内蔵されているものと同じだし。

でも、こちらは純粋に信号レベルアップ専用で設計されている機材!
必要最低限の構成で、マイクに特化したチューニングがされているから、音が本当にクリアに増幅されるんです。
ミキサー側のゲインアップが最小限で済むから、総合的にみるとS/N比がとても良くなるのです。

使ってみた

購入時、まずはやっぱり基本からということでSHURE SM58で試しました。
私はSM58を5本持っているので、わりと購入時期が近くて使い込みも同じくらいの2本をチョイスして比較。
1本はミキサーのプリアンプでいつも通りのレベルに合わせて、もう1本はCL-1を通したうえで1本目と同じくらいのレベルまで合わせます。
やっぱり25dB違うと、ミキサーのマイクプリのツマミ位置も相当違います。私が使っているミキサーだと、CL-1を通した方は3分の1くらいの値で十分。

調整を終わらせて、比較試聴。
最初は自分の声で適当に喋ってみたんですが、その時点ではぶっちゃけ「そんな変わらなくない? むしろなんかノイズ増えてない?」と思いました。(笑)

でも、そのあと時間をかけてSM57やMD441などいくつかマイクを変えてみたり、友達の歌い手さんが遊びに来てくれた時に試させてもらっているとだんだん特性が分かってきましたよ!

メリット

・マイクプリアンプの「音色」や「癖」、「色付け」をすることなく、どんなマイクでもクリアなまましっかり音量をアップしてくれる。
マイクプリには少なからず音の質感や個性があります。私はそんな深く語れるほどたくさんのマイクプリを試してきたというわけではないですけど、それでもこれまで録音に使ってきたミキサー内蔵マイクプリや単体のマイクプリと比べて、すごくナチュラルな音質だなというのは感じました。
もちろん、厳密にいえば音色変化はあります。でも色付けされたというより、マイク信号が増幅されてインターフェース側のゲインに余裕が出てたことで、本来集音されている音がはっきり聞こえるようになったっていう感じの変化です。
実際、録音しているとマイク感度自体がかなり上がった印象になりますし、通常のマイクプリでは聞こえていなかったニュアンスがしっかり拾えるようになっているのは間違いありません。
ダイナミックマイクの音質のまま解像度が上がるっていう不思議な感覚を体験できます。コンデンサーマイクとは全く違う世界なんですよね。これはとても面白い体験だったし、「お前ほんとはこんなに音拾える能力あったのか!」とマイク性能に改めて驚いたことも多かったです。

・音の輪郭がくっきりして、低音のボワッとしたもたつきが少なくなる。
きっと回路にトランスが入っているからでしょうね。
トランスボックスとかサミングアンプを使ったことある人なら、きっと「ああ、あの感じ」っていうのは分かっていただけるのではないでしょうか。
ギターでもプリアンプ系のエフェクトを通すと、なんとなく音がシャキっとしますよね?あの感じです。
伝わりますかね?(笑)
余計なものなそぎ落とされたような、カメラのレンズのピントがバッチリ合ったような、音がシャープになる印象があります。
さっき音色変化あんまり無いって言ったやん!って言われてしまいそうですが、その変化の仕方がとにかく自然なので印象はそのままなんです。そのあたりのチューニングが絶妙なんでしょうね。

とりあえず、細かいことは置いておいて、「とにかく気持ちいい音になる!」
これが一番の印象です。

デメリット

・信号ボリュームが上がる分、部屋のノイズが気になるようになった。
でも感度がよくなったっていうことでもあるから、音質自体は向上している証拠ですね。
感覚として「ダイナミックマイクとコンデンサーマイクの中間になった」というような感じもあります。

・ファンタム電源が必要
これは最近のミキサーやオーディオインターフェースでは付いてない方が珍しいのであまり問題にならないかもしれません。
ただ、普段ファンタム電源をかけない(かけちゃダメ!!)なダイナミックマイクにファンタム電源を使うことになるので、そこはしっかり意識しておかないといけませんね。
もちろん、ファンタム電源の電流はCL-1を駆動させるためだけのもので、CL-1から先のマイクまでは流れないのでご安心ください。


所感

最近のオーディオインターフェース標準プリはかなりローノイズなうえ、SM58もそんな信号が小さいわけではないので、環境によってはそこまで恩恵は大きく感じられないという方もいらっしゃるかもしれません。
これがビンテージのS/Nが良くないプリアンプだったり、マイク自体の出力が小さい場合はかなり大きな効果が期待できそうです。

コレ、けっこう高いし、ダイナミックとコレを買うんだったらコンデンサーマイクでいいんじゃね?と思った方も少なからずいらっしゃると思います。
はい、自分もそう思います。(笑)
というか、そう思っていました。今は過去形!

ダイナミックマイクをあえて使った方がいい局面というのもたくさんあります。
音楽の場合ならロック系だったり少しレトロ感やジャジーな雰囲気を出したい時は、コンデンサーマイクよりもダイナミックマイクを使用した方が音の厚みや勢いが出て良い結果になることも多くあります。コンデンサーで録っておいてEQやシミュレーターでそういった加工をすることもできますが、マイク自体を変えた時の質感の変化と比べるとやっぱり別物です。
特に高価格で、音はとても良いけどやや出力が小さいダイナミックマイク(人気どころだとSHURE SM7BやゼンハイザーMD441Uとか)はかなり大きな音のレベルアップが狙えそうです。
また、元々ライブなどでの使用も想定しているようで、新品で買うとマイクスタンドに固定するためのテープなども付いてきます。CL-1を接続することで細かなニュアンスをしっかり拾えるようになるので弾き語りとかされている方にも合うと思いますし、声にパンチを加えたい!といった場合にも良いのではないでしょうか。
私はCL-1を買って以降、ダイナミックマイクで録音する時には必ず使うようにしています。
やっぱりミックス段階になってコンプやEQを使ったり倍音を弄る系統のプラグインをかけたりする段階になると、かかり方が段違いなんですよね。キレッキレで別のマイクみたいになります。

あまりメジャーではない機材だけど、特に海外を中心に発売当初からかなり評価が高く、絶賛のネットレビューもたくさんついています。
というか悪いレビューや評判を私は見たことがありません。
最近の宅録や歌ってみたではコンデンサーマイクが主流だと思うので「即お買い上げ!!」ってなる人は殆どいないかもしれませんが、音源や曲によってダイナミックとコンデンサーを使い分けられていたり、ダイナミックにこだわりのある方はぜひ試してみてはいかがでしょうか?

Cloud Microphone / Cloudlifter CL-Z
created by Rinker

あと私はまだ使ったことがないけど、同じ機能を持った対抗馬の機材もいくつかリリースされています。
有名どころでいえば、SE ElectronicsのDYNAMITEというアダプタ。


こちらはCL-1よりやや安価で、マイクに直接ぶっ挿すのを推奨しているようです。
見た目と色がそれっぽいだけじゃなく、本体に思いっきりダイナマイトって書いてあるので所持していると職質されるか飛行機の手荷物検査で没収されそうですよね。(笑)
SE Electronicsはレコーディングでもよく使われているSE2000シリーズなど有名なマイクを多数リリースしているメーカー。宅録の味方リフレクションフィルターを最初にリリースしたのもここで、比較的安価ながら高品質な製品を多数リリースされていることで有名です。気になる方は是非チェックしてみてくださいね。
ちなみについ先日、DYNAMITEの上位機種になる「T.N.T」という機種もリリースされました。
また、冒頭にも少しご紹介しましたが、今回ご紹介したCL-1の上位版で「CL-Z」という機種もリリースされています。
Cloud Microphone / Cloudlifter CL-1
created by Rinker

こちらは入力インピーダンスをダイヤルで変更ができるようになったもの。
マイクや機材によって入出力インピーダンスは違っていて、それにより音色がけっこう変わります。
※このあたりは本気で語りだすと大変なことになるから「マイク インピーダンス」とかで検索してみてください。
マイク沼にハマっていくとこのインピーダンスも気になってくることも多いので、インピーダンス変更による音色変化を取り入れて音作りしてみたいという方にはオススメです。