昨年冬に購入したカフェオレーベルのライントランスボックス「AMATERAS」。
1年ほど使ってみたので使用感をレビューします。


概要

トランスボックスとは

多くの電子機器で使われている「トランスフォーマー(以下トランス)」。
トランスの本来の役割は変圧器ですが、このトランスを通すと音楽的に「音に艶が出る」「低音が締まり、高音がきらびやかになって抜けがよくなる」「ドライブ感が出てカッコよくなる」というような効果が知られていて、多くの音響機器に搭載されています。

言わずもがなですが、代表的なのはレコーディング機器の大定番Neveですね。
Neve機材の太く色気があるロックサウンドは回路のインプット・アウトプットに組み込まれているトランスが決め手となっていることが広く知られています。

このトランスの効果を積極的に音作りに活かすため、トランス単体を抜き出してエフェクター的に使用できるようにしたのがトランスボックスです。

ただ、レコーディング用アウトボードとして純粋にトランスを通すだけの機材は殆ど市販されておらず、どちらかといえばオーディオマニア向けに音質改善・グレードアップのグッズとして多くの製品が販売されています。
でもサウンド&レコーディングマガジンでレコーディングエンジニアさんのスタジオレポートなどを見ていると、自作されたと思われるトランスボックスが写っていたり、時々インタビューの中で言及されたりしていて、プロの間でも重要な機材として使われていることは間違いありません。
因みにトランスはパーツ単体として非常に高級な部類で、一般的に音響機器として評価の高いトランスを搭載している機材はやはり価格が1ランク高いものが多いです。

もちろんハイグレード機材には必ずトランスが搭載されているわけではなく、設計思想としてトランス非搭載のハイエンド機器も多数あります。(Grace DesignやMillenniaのマイクプリアンプなどが有名ですね)
トランスレス機器は音の立ち上がりが早く、原音忠実でハイファイな傾向のサウンド。
アコースティック系音源やルームアンビエンスの収録、クラシック音楽のレコーディングなど自然な音を録るのに向いている機種が多く、方向性は全く違いますがこちらも素晴らしい音で録音できます。

良し悪しではなく音色の個性。がっつりと色がついて躍動感やドライブ感が出るトランスの音は、荒々しいロックサウンドや”太さ”を求める音色にうってつけといえますね。

amaterasのトランスボックス「ニーヴくん」

そんなトランスボックスの中でも宅録界隈で有名なのが、カフェオレーベルの「AMATERAS」シリーズ。通称「ニーヴくん」。
エフェクターマニアのギタリスト・ベーシストさんや、宅録でアウトボードを活用している方なら一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
トランスを駆使したオリジナルアウトボードや既存機材のカスタム製品をかなりリリースされていて、原価率を限界まで高めているということでかなりコストパフォーマンスの高い価格帯でリリースされています。

ライントランスとしてラインナップされているのは、現行Neveクローン製品でも採用されている「Carnhill(OEP) / カーンヒル」製のバージョン、そして同じくNeveクローン製品や多くのレコーディング機器にも採用されている有名な高級トランス「Lundahl / ルンダール」製バージョンの2種類。
ちょうど同時期に2種類とも入手したので、私はいろんなシチュエーションで入れ替えながら使用しています。

仕様

単純に「通すだけ」です。パラメーターも何もありません、ほんとに通すだけ、です。
機材のどの段階に通せばいいかについては、公式サイトに詳しく記載されています。

特性上、ニーヴくんを通すと数dBほど音量がアップし、入力レベルが大きいほどドライブ感が出てきます。
元ソースの出力と、受け側の入力レベルで質感を調整していきます。
イメージとして、ギタリストの方でEP Boosterとかを使ったことがあるなら「ONにしてツマミゼロで通した感じ」を想像してもらったら、それに近い雰囲気かもしれません。激変するわけじゃないけど、無いとなんか物足りなく感じてしまうアレです。


インプレッション

ミックスで使う

私がニーヴくんを一番よく使う場面は、ミックスのパラデータの中から一歩前に出したいと思ったパートをニーヴくんに通すというやり方。(ボーカル、ベース、ドラムとか)
オーディオI/FのアウトからニーヴくんのINに直結。ニーヴくんのOUTからオーディオI/Fに戻します。
曲のキャラによっては全パートに通すこともあります。2台併用してもモノラル4トラックずつか、ステレオ2トラックずつしかできないので、トラック数が多いとそれだけで半日潰れます。(笑)

基本的に軽いコンプとEQで整えただけの早い段階のトラックにかけることが多いけど、がっつりミックスしたあとのトラックにもう一押しでかけることもあります。本当にケースバイケース。

・Carnhill(OEP)  …  音が締まる、というのが一番大きな印象。
輪郭がはっきりして、音がシャキッとする感じ。
特に低域がボヤっとしている音源だと変化がよくわかります。音の芯になるところが前に出てくるので、腰が据わってどっしり安定した感じになります。高域も明るさが増して、でも適度にトゲがとれて耳に痛くはない。音が元気になります。

・Lundarll … 音が華やかになります。
綺麗なメッキを施してくれるというか、上品なラメをまぶしてくれるというか。Carnhill(OEP)よりも広い帯域にわたって、でも自然でなだらかな感じに艶を与えてくれるっていう印象です。
木工でいうと極薄ラッカーフィニッシュみたいな感じ。伝わるかな。(笑)

私はボーカルやギター、デジタル系の音にはLundarll 。ベースやドラムにはCarnhill(OEP)を使うことが多いです。
EQとサチュレーションのプラグインを組み合わせたら同じようなことはできるのかもしれないけど、プラグインだとハイファイになりすぎてどうにも音が馴染みづらい、もう一歩!っていうときにニーヴくんを通すと一発解決したり。

同じ機材を通した音同士の馴染み方はプラグインではマネできない質感があります。

マスタリングで使う

マスタリングでも時々使います。
通し方はミックスの時と全く同じで、マスタリングの初期段階でかけることが多いですね。この時はほぼLundarllオンリーで使っています。
音を気持ち程度に締めたいというときはややレベルを抑え目に。がっつり気合を出してロックな感じにしたいというときはレベルを突っ込み目にしてドライブ感を出してみたり。
特にデジタル系トラックの耳につく感じを丸めるために使ったり、アナログ感を付与して打ち込みくささを薄めたりするために入力レベル低めで通すシチュエーションが多いです。

全体的に音同士の馴染みをよくするためのサミング的な効果はもちろん、もさっとしやすい低音域がナチュラルに締まって整理される感じがとても好きです。
あと、おそらく倍音がしっかり増幅されるせいだと思いますが、通したあとはEQやコンプの利きが良くなる印象があります。

ライブにも

私、楽器の演奏はそんなに上手くないのでプレイヤーとして実戦使用感というのはちょっと自信がないんですが、コンパクトエフェクタータイプのニーヴくんを使っている友達のギターの子のライブを見に行って、その音を体感したことはあります。エフェクターボードにしっかり赤い箱が置いてありました。(足元ばっか見ずにライブ見ろや!!って言われた。ペダルまわりの機材チェックとか演奏中に踏んでるところ見るの楽しくないですか? 笑)

SCHECTER大好きのテクニカル系ギタリストの子なんですが、なんか前観に行ったライブよりめちゃめちゃ音がシャキっとしてました。元々音色の作り方がクリーン志向で綺麗なんですけど、それがさらにキレッキレになっているというか。何弾いても音がつぶれなくてガツンと耳に入ってくる感じ。弱電楽器だとライン信号より更に効果が高いのかもしれないですね。本人も「一回使い出すと外せなくなる」と言ってて相当気に入っているようでした。

ボーカルの子もマイク用ニーヴくん使って歌ってくれないかな…マイクの音がPAでどんな風に変わるか聞いてみたい。

まとめ

トランスボックス、あんまり馴染みのない機材だし「通すだけの物にこんなお値段するの!?」って最初買うときは勇気がいるかもしれません。私もかなり勇気がいりました。

でもこの質感の変化は、一度実際に体験してみないと分からない!っていうのは確実に言えます。そしてこの手触りがばっちりハマると、きっともう手放せない機材になるんだろうなと思います。おかげさまで、いつかマリンエアのトランスを…って思ってオークションを眺める日々になっています。
私もまだまだ使い始めでポテンシャルの何割も引き出せていないですけど、まだまだ使い倒したい機材。

プラグインだけじゃ物足りない、なにかもう一皮むけた音にしてみたい!っていう方にはかなりお勧めの機材です。

amateras / LineTrans 2ch.LUNDAHL/AMATERAS 0002