マイクの種類を増やし始めると、「リボンマイクってどうなんだろう」というところに興味が出てくるのは必然。
でも実際に持っている人ってあまり多くないので、結局自分で買うしかないんですよね。(笑)
そんな時、真っ先に筆頭にあがると思われる激安リボンマイク、MXL R144をレビューします。
目次
概要
MXLは、宅録歴の長い方の中にはマーシャル・エレクトロニクスという社名でピンとくる方もいらっしゃるかもしれません。(昔はそのメーカー名で販売されていました) 電化製品製造を母体としているアメリカのプロオーディオ機器メーカーです。
設立者のレナード・マーシャル氏は1980年代に日本のMogamiケーブルの品質に大きな影響を受けられたそうで、そこからアメリカでMogamiケーブルを使ったアセンブリやオリジナルケーブルの取り扱いを開始し、やがてスタジオ向け機材の製造へと事業を拡げられていったようです。
とてもリーズナブルで幅広いラインナップのマイクロフォンを多数リリースされていますが、中でも有名なのは1999年発売のMXL 2003ですね。
エントリークラスの価格ながら、そのサウンドがあのNeumannを彷彿させるということで一躍有名になりました。現在でも現行バージョンのMXL 2003Aはコストパフォーマンスに優れて音が良いということで評価が高いです。
すごくナチュラルで落ち着いたサウンドはオールラウンドに使える感じで、Neumannサウンドに似ているかは別として外れのない”良いマイク”。
私も大好きです。
そんなMXLのラインナップにはリボンマイクもあり、中でもひときわ低価格なのがR144。
2012年頃から国内流通し始め、手軽にリボンマイクサウンドが楽しめるということでカスタムベースとしても人気の機種です。
為替レートや輸入状況にもよるようですが、高くても1万円ちょっと。
安いときなら8千円台になることもあります。
仕様
パッケージから取り出すと、ものすごく頑丈なキャリーケースが。その中にマイク本体とショックマウントが収納されています。
もう、このケースとショックマウントの時点でマイク本体分のお値段がしそうな感じです。利益出るんでしょうか…。
付属品としてショックマウントの交換用ゴムや磨き用のクロスまでついてきます。ステッカーも。MXLのステッカー貼ってる方とか見かけたら思わず声かけちゃいそう…。にしても本当にコスパすごいですね。
マイク本体は綺麗なパープルで、グリル部はシルバーメッキ。価格を考えるとすごく綺麗に作ってある印象です。
さすがにウン万円のコンデンサーマイクとかに比べると質感は見劣りするけど、amaz〇nで売ってる謎メーカーの2000円コンデンサーマイクとかに比べたらすごくしっかりしています。
そもそもそのレベルと比べちゃだめですね。(笑)
ちなみに色違いでシルバー塗装のR144-HEという機種もあります。中身は一緒みたいですね。
持ってみると意外と重量感があって、重心はやや上の方にある感じです。
本体にスイッチなどはなく、指向性は双指向性。
リボンマイクというと、その名の通り収音部は極薄金属リボン。なので取り扱いはコンデンサーマイク以上にデリケートです。
ビンテージ機種なら「リボンマイクは持って歩いただけで風圧に負けて壊れる。どんな短距離でも必ずケースに入れて移動するのが鉄則、最悪でも手で収音部を全部隠してゆっくり移動する」って脅されたことがあります。。。
そう聞くとちょっと触るのが怖いですけど、最近販売されているリボンマイクはそこまで気にしなくでもよい製品が多いようです。
このR144も例にもれず、ほとんどコンデンサーマイクと同じような感覚で扱えます。
そもそもお店から自宅まで車やら人やらで運ばれてきて無事なのでよほどのことがなければ大丈夫だとは思うけど、もちろん慎重な扱いに越したことはありません。
耐圧もスペック値で130dBということでギターアンプとかの音圧にも耐えられると思われますが、あまり風圧をかけるとリボンが破れる可能性もあるので吹かれなどには十分気をつけましょう。
注意点として、リボンマイクはファンタム電源は絶対NG! 見た目はコンデンサーマイクっぽいけど絶対いけません、本当に壊れます。
あと、他のマイクと同じように横倒しで寝かせて保管するとリボンが伸びたり変形して音質劣化してしまうのでNGです。立てて保管するのが基本。
ビンテージほど影響はないんじゃないかと思いますが、長期間横にしているとやはり良くなさそうなので私もR144だけはデシケーターの中で縦置きにして保管しています。
インプレッション
コストのせいなのかお国柄なのか輸送の問題なのか、レビュー等を見ているとたまにハズレといわれる個体があるようです。
そもそも私はちゃんとしたリボンマイクの音自体を知らないので、ハズレてても「こういうもの?」って思ってしまいそうだったので保険として2本注文しました。それでも安いコンデンサーマイク1本くらいのお値段ていうのがすごいですね。
結果的に私が購入した2本は、比較チェックしてもほぼ個体差がわからない良品だったようです。さすがに2本ともNGはないですよね…たぶん。
ボーカルを録音してみる
まずはオーディオI/Fのプリアンプ直結で、私で歌って録音してみました。
パッと聴いた感じは少し感度低めのダイナミックマイクで録音したときに近くて、でも中~高域にサラサラとした独特の質感がある、という印象です。歪みとはまた違う”ざらつき”があって、解像度は低いんだけど音の密度は詰まってる、っていう不思議な聴感。
コンデンサーマイクの音が無数の粒子で構成されているとしたら、R144の音は紙の繊維でできた柔らかい塊が押し出されてくるような。
そして耳に痛い感じが全く無くて、わざと強めに歯擦音を入れて声をだしても、全体的に丸みを帯びています。
事前に描いていたイメージだと戦前のモノクロ映像についてるナレーションのような音を想像してたけど、さすがにそんなことはなく。意外と現代的な音です。
よく「リボンマイクは甘い音がする」っていう文言を見かけますが、たしかに甘いなって妙に納得してしまいました。
ゲインはSM58に比べて同じくらいか、少し小さいくらい。お世辞にもS/Nが良いとはいえませんが、声であれ楽器であれ何かしら音が入ってきている時には特に気にならないレベルです。
試しにリボンマイクモードが搭載されているGrace Design m201に差し替えて試してみましたが、プリアンプを通すとS/Nはかなり改善されます。
抜けがよくなって音像がクリアな感じになります。
雰囲気がかなり変わるので、マイクプリアンプ(特に600Ωモードなどリボンマイク向けの設定がついているもの)をお持ちの方は試してみると面白いかもしれません。
ちなみに、双指向性なのでマイクの表裏両方から音を拾えるのですが、表と裏で音質が違います。
マイクの裏側だと、表面に比べて低域が抑えられて、ちょっとだけ中~高域が強調されたような音になります。
少し音を立たせたい時はわざと裏面をマイキングして違った音色で収録してみるというのも有効だと思います。
また、普通に表面で録音するときにマイクのグリル背面(=双指向性の反対側になるレンジ)に手をかざすと、音がシャリシャリになってちょっとしたラジオボイスのようなエフェクティブな音になります。
これもこれで特殊効果な音として面白いかもしれません。私はけっこう気に入ってしばらく遊んでしまいました。
ギターで録音してみる
次はアコギのストロークを録音してみました。
1~3弦のジャリっとした感じは残りつつ、耳に痛くなりがちな帯域がいい具合に均されました。
6弦側のローも適度に均されされつつ押し出し感はしっかり残っているので、無調整でもかなり音がまとまって気持ちいいです。
ギターだと特に感じるのは、音のつながりが滑らかなこと。
早めのカッティングやピッキングをした時、コンデンサーマイクだと時々ちょっと刺さる感じがあってそこだけEQで抑えたりサチュレーション系プラグインで調整したりしたくなることがあるんですが、リボンで録った音はそういう感じがほとんどありません。
メーターで例えると、コンデンサーマイクはデジタルのピークメーター、リボンマイクはアナログVUメーターみたいな感じです。録り音が柔らかく自然な感じに聞こえるのは録り音がそういう特性だからなのかもしれないですね。
その他 思ったこと
ダイナミックマイクということもあって、マイキングする位置によってかなり音の拾い方が変わります。
私のアコギ(S.yairi)は比較的高域が強めに出るので、サウンドホールから30センチくらい、やや6弦側に向けると適度にルーム感もあるバランスのよい収音状態になりました。
オンマイクよりもややオフマイク気味のほうが質感的に良い印象を持ちましたが、オンはオンで中域の押し出しが強くていい感じなので音源ソースに合わせて変えてみるとよさそう。
近接効果については再度自分の声でも試してみましたが、かなりはっきり違いが出るのでポジショニングが重要になりそうです。
少しオフマイクにして鼻と同じ高さくらいから狙うようにすると、私が事前に想像していたモノクロ映像ニュースっぽい音になりました。これはこれで1パートだけエフェクティブにしたい時とか使えるかもしれない。
メインマイクとして使う以外に、サブとして他のマイクと併用するとかなり使い方の幅が広がります。
私がよく使うのは、コンデンサーマイクと一緒にR144でも収録を行って後でミックスする方法。
ギターにスモールダイヤフラムのコンデンサーマイクを立てるのと一緒に、サポートとしてR144で収録。ミックス段階でもうちょっとローの感じが欲しかったり胴鳴り感が欲しいっていうときにR144の収録トラックを足していくと、自然な感じの音像調整を行うことができます。
また、かなりトリッキーですがボーカルさんが宅録したコンデンサーマイクの音がなんか硬い…でもEQとかだとちょっと違う…ってなったときに、モニタースピーカーから15センチくらいの所にR144を立てて、単独再生したボーカルの音を収録し直したトラックをうっすらミックスしたりすることもあります。
音がやや丸くなって、双指向性の特性もあって程よくルーム感が足されるので、少しラフな感じに録音した雰囲気が出てきます。
そこにリバーブをかけて調整したりするのも面白いです。アコースティック編成のトラックではハマるとバッチリなサウンドになりますよ!
私はまだやったことありませんが、リボンマイクはエレキギターのアンプ収録にも最適といわれています。
スタジオレポートなどでもアンプ前にリボンマイクが経っているのを見かける機会が多くなってきていますね。(sE ElectronicsのVooDooやX1Rとかが多い)
このR144もスタジオレポートで常設マイクロフォンのラインナップに掲載されているのを何度か見たことがあります。
ギタリストの方はぜひアコースティックだけでなく、アンプ収録用に試してみてください。
まとめ
たまに品質のばらつきもあったりで色々言われつつも、検索するとレビュー動画やカスタムしてみた系の記事がたくさん出てきて、何だかんだ愛されているマイクなんだなという感じのR144。(笑)
リボンマイクの質感ってほんと言葉では伝わりづらくて、私もこのR144を買って生の音を聴くことで、初めて実感を持つことができました。
万能ではないけれどハマる人にはばっちりハマるだろうし、メインマイクと併用してエッセンスとして取り入れると幅広い使い方ができるリボンマイク。
お手軽な価格で手に入るR144で、その入り口に触れてみてはいかがでしょうか。
マイクをお探しの方はこちらの記事もぜひチェックしてみてください!