コロナ禍以降、音響機材メーカーも影響を受けているのか、新製品のマイクロフォン発表が目に見えて減ったように思います。時々新製品が出てもビジネス用ウェブ会議向けマイクだったり…宅録・録音機材大好きな私としては悶々とする日々です…。
そんな中で彗星の如く現れた、みんな大好きaudio technicaの新製品マイクAT2040。
これまで「ありそうでなかった」小型なブロードキャスト型のマイク。
実際に使ってみましたのでレビューです。


概要

audio technicaについてはもう説明不要ですよね。
イヤホン・ヘッドホンメーカーとしてもお馴染み、日本が世界に誇るオーディオメーカー。看板マイクのATシリーズは世界中の録音・PA現場の第一線で活躍していますし、ライブ向けワイヤレス機器でも大きなシェアを誇っています。
私もAT4050を愛用していて、ボーカル録音で悩んだときにはまずコレ!というファーストチョイスの1本になっています。
そんなaudio technicaのATシリーズですが、レコーディング向けマイクとして「AT20」シリーズは製品群の中でも比較的安価なエントリークラスのラインナップ。これを読んでくださっている方の中でも、初めて買ったマイクがAT2020やAT2035だったという方がいらっしゃるのではないでしょうか。(サウンドハウスさんのランキングでもAT2020は常に1位か2位にいますよね…これは何気にすごい。)
そんなAT20シリーズに、今回新たに加わったのがAT2040です。

仕様

駆動方式はダイナミックマイク。SHURE SM58等と同じ、ファンタム電源が不要なタイプです。
レコーディング向けであるAT20・40シリーズの多くは「サイドアドレス型」という一般的なレコーディングマイクのタイプですが、このAT2040はラジオの放送局で使われるようなブロードキャスト向けなイメージのフォルムになっています。
そして驚きなのはその大きさ。大体このタイプのマイクはSHURE SM7BEV RE20のようにやや大振りな機種が目立つ中、手のひらに収まりそうなコンパクト筐体。
デスクに出しっぱなしにしていても取り回しが良さそうだし、なんだかかわいいですよね。
比較的小型ながら出力端子はXLRを採用している他、マイク先端のグリルがウィンドスクリーン内蔵型になっているので、ポップガードを立てなくても比較的「吹かれ」に強くなっています。完全に吹かれないわけではないのでシビアな録音ならばポップガードも立てた方がよさそうですが、このマイクでがっつり本チャン録り!というシチュエーションはあまりないと思うので、普段のウェブミーティングや実況配信用にちゃちゃっと用意して始めたい、という時には手軽で良いですよね。
指向性は、最も鋭い部類に入るハイパーカーディオイド。マイク真正面以外の音はしっかりとカットされます。リフレクションフィルダーなどを使わなくても環境ノイズなどが入るのを抑止してくれる効果が期待できます。また、振動を抑制するショックマウントも内蔵している構造になっているそうで、マイクスタンドを伝わる振動を軽減してくれるとか。デスクで使用する方ならばキーボードのタイピングによる振動の抑止なども期待できそうですね。


トークを録音してみる

実際の録音インプレッションです。
まずはメイン用途として想定されていると思われる、普通の会話トーンでのトークを録音。
定期的にウェブラジオを配信している歌い手の友達が、コロナが落ち着いてきたこのタイミングのうちにゲストトークをしたい!ということで録音サポートの依頼をもらったので、SM58とこのAT2040を立てて実際に録音してみました。
友達の声はいつもSM58を通して聞き慣れているのでそちらをAT2040に差し替えて、ゲストさんにはSM58を使ってもらいます。ちなみに二人とも女の子。
30分ほど録音してみた印象としては、すごく音がスッキリとしていて聴きやすい! 元々、ATシリーズは日本のメーカーが作っているだけあって他メーカーのどんなマイクよりも「日本語が綺麗に収録できる」マイクだと思っているのですが、その中でも「”トークとして”録り音そのままでも一番聴きやすい音」が録れた気がします。ボーカル用コンデンサーマイクほど周辺ノイズを拾いすぎることがなく、かといって感度低めのダイナミックマイクほど「いかにも」なダイナミックマイク感のない自然な広さのレンジで、すごく耳触りの良い音になりました。
スッキリとはいえ低域がガッツリ削られているということはなく、全体的にバランスが良いといった方が正しいかもしれません。SM58は口元との距離や声質によってある程度EQ補正しないとこもったり抜けが悪くなったりする場合があるけど、AT2040はブレが少ないというか、あまり弄らなくてもちょうどいい帯域がしっかり入ってきます。これはコンプをかけたりした後も印象が変わらず、抜けがよく気持ちいい中域がしっかり出てきました。
おそらく男性でもコンプをかけるとFMラジオ的な雰囲気のモダンなサウンドになりそうな感じがするので、男女問わずオールマイティに使えるでしょう。このあたりのバランスの良さはさすがaudio technicaさんですね。
トーク中、二人にはヘッドホンをしてモニターしてもらっていたのですが「SM58の時より自分の声が自然に聞こえて喋りやすいかも」「長時間喋ってても疲れなくて気持ちいい感じの音」ということでとても好感触でした。今度は二人ともAT2040を使いたいと言われたのでもう一本買わないといけないかな…(笑)
1つ注意点としては、指向性がハイパーカーディオイドというだけあってマイク前を外れると一気に音量が下がります。トークが盛り上がってモーションが大きくなった時には気をつけましょう。指向性の中でマイクとの距離が離れるのは全然問題ありません。指向性の中で離れる分にはSM58よりもゆるやかに音量変化で扱いやすいです。
これはデメリットでありつつメリットでもあって、指向性範囲以外はかなりカットされるので環境音はかなり入りづらいです。通常のカーディオイドマイクに比べるとノイズ抑制能力の高さを感じました。

歌を録音してみる

そのままの流れで、歌ってみた用のボーカルも1本録らせてもらいました。こちらもSM58と隣り合わせの2本立てでテストです。
音質はオーテクらしい万能選手なサウンドという感じ。トークの時と同様、SM58と比較すると全体的にややスッキリとしています。SM58で録ると後からEQのローカットやハイシェルフをかけて調整することが多いので、それが最初から処理されているような感じで後処理が楽になりそうな印象。
ロック系の太い音を録りたい!というのには向かなそうだけど、中域にしっかりと芯があるし、滑舌をしっかりと拾う感じなので明るめなポップスなどにはピッタリでしょう。低域もEQで持ち上げればそれなりに出てきます。今回は女の子の声で録りましたが、男性ボーカルでもオイシイ帯域になる中高域が全面に出てくる感じになりそうなので、甘めのボーカルの方やポップス系を歌う方にはキャラが合うと思います。
このフォルムだし歌録りにはどうなのかな…と若干不安はあったのですが、普段実況やトークをする方が時々歌ってみたをやるっていうような用途には十分すぎる音質だし、しっかりとマイクアレンジをしてマイクプリアンプを選べば本チャンとしての録音にも使えるレベルのクオリティでした。比較的近接効果が出にくいし、指向性さえ外さなければ多少立ち位置が前後しても音色のブレは少ないので、あまり録音慣れしてない方でも扱いやすそうです。
意外だったのが、けっこう声を張って音圧が出るときでも歪みにくいこと。スペック上の耐音圧はそんなに高いわけじゃないのに、SM58に負けないレベルでけっこう耐えてくれます。このあたりの余裕があるのも嬉しいですね。

楽器を録音してみる

自分でアコギを弾いて録音してみました。
SM57を立てるときと同じようなイメージで、サウンドホールから15cm程度のところにややネック方向に傾けてセッティング。
コードストロークのジャリっとした感がしっかり収音できて、耳に痛くなりやすい高域もしっかりと収音されつつ適度に均されているという印象。少し6弦側を強めにストロークしてみると、胴鳴りもいい具合に拾ってくれます。単体で聞くとちょっと物足りないかな?とも思いましたが、普段ミックスする時のアコギ処理後の音に近い感じもあったので、アンサンブルの中の音色としてはむしろ使いやすいサウンドとも言えますね。
指向性が鋭いので、音像としてはかなりオンマイクな印象になります。これはこれでモダンな音色だと思うので好きな方はけっこういそうな気がします。マイクアレンジはいつもよりちょっとシビアに詰めた方がいい感じではありますが、角度・距離をうまく調整して狙えばエアー感も含めて録ることもできます。

実際使ってみて思ったこと

いくつかシチュエーションを変えて録音してみて思ったんですが、このマイク、本当に取り回しがいい!
小型で軽いからマイクスタンドでの固定もすごくやりやすいし、細長のフォルムだと音源を狙いやすいからマイクアレンジの距離や角度のポジショニングもパッと決まります。このフットワークの軽さは普段サイドアドレス型のマイクからすると本当に段違いで、「めっちゃ楽!!」ってなります。
また、トーク収録の際、「本体がスリムだから向かい合い収録で顔が見えやすい」という意見もありました。こういうコミュニケーション的なことだったり絵面のことって、配信実況とかでも意外と重要なんですよね。

まとめ

ウェブで新発売情報を見たときから「これは欲しい!」と直感的に思ったマイクだったんですが、結果的にも本当に買ってよかったと思えるマイクでした。
レコーディング用マイクをたくさん持っている方でもオンライン通話やちょっとした録音が必要な時の「出しっぱなしマイク」として何かと便利だし、なるべくしっかりとした音で届けたいという配信者さんや実況者さんには抜群におすすめできる1本です。
使えば使うほど取り回しの良さとバランスの良さが実感できる完成度の高いマイクです。ぜひチェックしてみてくださいね!