「別のエンジニアさんにミックスをご依頼するときに、恥ずかしくないようしっかりした音で録れるようにしたい!」
と思って、私が初めてそこそこ思い切った予算を出したマイクプリアンプがFocusrite ISA Two。
もうだいぶ使い込んできたのでレビューです。
目次
概要
Focusriteはレコーディング機器の神様ルパート・ニーヴ博士が設立したイギリスのプロオーディオメーカー。
Neveの流れを汲んだトランス式サウンドを色濃く残して、80~90年代にかけてスタジオコンソールのスタンダードの1つになりました。
プライベートスタジオでも、ラックマウトタイプのマイクプリアンプREDシリーズやGreenシリーズは非常に高品質なサウンドで有名です。
現在は初心者でも手に取りやすいエントリーユーザ向け製品も多数リリースしていておなじみのメーカー様ですよね。
ProToolsが宅録ユーザにも一気に広まるきっかけになった初代「Digidesign Mbox」にFocusriteのロゴが刻まれているのを見て驚いた方も多かったのではないでしょうか。
その後Focusrite製の低価格なマイクプリやオーディオインターフェースは宅録の定番になっています。
「ISA」はFocusriteの看板コンソールの一つ「Forte」に採用されていたモジュール(スタジオミキサーの1ch分になる基盤のようなもの)をもとに設計されているシリーズ。
そのマイクプリアンプ部分だけを抜き出した2chモデルがISA Twoです。
仕様
1ch分でツマミは3つ、ボタンは7つ。組み合わせを考えるとこの大きさでかなりたくさんの機能が詰め込まれていますね。
ツマミは左からGAIN、Trim、HiPass Filter。
GAINはクリックタイプで、Trimはノンクリックタイプで、ゲインアップしかできません。
調整時にはGAINで少し控えめにメーターが振れるくらいの状態にして、不足分のゲインアップをTrimで微調整するという感じですね。Trimの可変幅が広いので、実際のオペレーションで困るようなことはまずありません。でもGAINで音量を突っ込みすぎると、とっさに大きなピークがきたときに音量ダウンができないので気をつけましょう。
左上のZ inツマミは、ISAの特徴の1つであるインピーダンス切り替え。
マイクの特性に合わせてインピーダンスを切り替えることで音色を変化させることができます。
一般的な定番であるインピーダンス設定と、看板モジュールISA110の設計インピーダンスを模したISA110モードがあります。
マイクとインピーダンスの関係はそれだけで専門講義が成り立つくらい複雑なので省きますが、どういった変化が起こるのかはマニュアルに詳しく掲載されています。
したがって、入力インピーダンス設定を高くすると、低いインピーダンス設定に比べて、低/ 中域の周波数領域ではよりフラットな、高域の周波数領域ではブーストされるようなマイク性能が得られます。
「マイク自体の想定インピーダンスより高めに設定すると高域がややブーストされる傾向になって、低めに設定するとマイク自体の周波数の個性がよりはっきり出てくる」という感じでしょうか。。。このあたりは詳しい方にお任せしますね。(笑)
マイクプリアンプでインピーダンス切り替えができる機種自体がわりと少ないうえ、4種類も切り替えられるのはかなり珍しいので、音色の幅が広くなりますね。
左下はインプットソースの選択。マイクだけじゃなくLINEやDI入力もあるので、キーボードなどのライン機器を通したりギター・ベースなどのプリアンプとして使うこともできます。
このISAにもFocusrite定番のLundahl社製トランスが搭載されているので、S/Nの改善だけじゃなく「通すだけ」のサミング的な使い方で音をジューシーにすることもできます。
GAINツマミのお隣は、GAINの対象レンジの切り替えスイッチ、+48Vファンタム電源スイッチ、そして位相反転スイッチ。位相スイッチはアンビエンス録音とかドラム録音やなんかで重宝しますね。
そしてHPフィルターのお隣はフィルターのON/OFFスイッチ。そして背面のインサート端子に別機器を接続したときのインサートON/OFFスイッチです。マイクプリはISAサウンドにしてEQやコンプは好みの機種をインサートすればオリジナルのチャンネルストリップが出来上がりですね!
INPUTは前面がDI IN。思いついたときにざくっと挿せるのでこれはとても有難いですね。
背面はLINE IN用のフォン入力、マイク用のXLR入力、インサート入出力になっています。
あと、前面のLEDメータの調整ツマミもあります。キャリブレーションが必要な場合はここで調整できます。
インプレッション
ボーカル録音で使ってみる
いつも録音をさせてもらっているお友達のボーカルさんにお手伝いいただいて、改めてじっくり分析です。
マイクは安心の定番、AT4050。
DAW側のレベルメーターが6~7割程度振れるようにして、インピーダンスはISA110モードに設定。高音が煌びやかでジューシーな、スッキリとした抜けのよい音です。スッキリといっても中低域が抜けているわけじゃなく、安物インターフェースのプリアンプと比べたら中域の密度が段違いに高くなっているのが分かるし、低音域も伸びていて音の芯を感じる安心感があります。全体的に密度が高くて締まった音ですね。安いオーディオI/Fのプリアンプ直に比べると音がガツンと前に出てきます。
プレーンな録り音で物足りないときにもEQでどうにでも調整できそうですし、情報量が多いのでプラグインでのレスポンスも良さそうです。
質感はクリーン過ぎない、かといってザラつき過ぎるということもなくて、とてもキメ細かな粒子を感じるような耳触わりが心地いい! 少し突っ込み気味にすると、さらにいい感じのざらつきが付加されてきてロックなサウンドになってきます。
ハイパスフィルターもすごく自然なかかり方で、80~90Hzくらいに合わせるといい具合にフロアノイズが軽減されました。
ここからインピーダンスを切り替えてみます。パっと聴いた感じの音色変化としては”極々わずか”のレベルなんですが、これ絶対にコンプで持ち上げてミックスで詰める段階になったら激変してくるやつや…というのが分かる感じの変化です。EQとは違った感じの質感変化と倍音の出方が変わる感じですね。AT4050だとインピーダンスをISA110以上に上げていくとだんだん高域がエンハンスされてきます。私がよく弄るアコースティック系音源だと少し耳についてくるかなという感じだけど、音数の多い打ち込み系やロック系の中で少し刺さる感じにしたいという時はばっちりハマると思います。
Lowモード(600Ω)はリボンマイクやなんかを想定しているみたいなのであまり積極的に使う設定じゃないのかもしれないですが、コンデンサーマイクでも少しアナログ感が強調されるような感じがあって面白い質感だなと思いました。これ、機種にもよりますが真空管マイクで使うと空気感が出て良さそうです。安物ですが私の手持ちの真空管マイクで試させてもらったら、ウィスパーボイスがものすごく生っぽくてえっちな感じになりました。ヤンデレ感が2割増しみたいな。(笑)
楽器の録音に使ってみる
LINEとDI INについてもざっくりと試してみました。シンセをLINE INに繋いで音を出してみると、ミキサーに直結したときよりレンジが広がる感じで音がグッと前に出てきます。特に厚めのシンセリードやシンベに通したときの音は気持ちよくてやばいです。やっぱりトランスを通る効果が大きいんでしょうね。Amaterasのトランスボックスを通したときと同じ印象でした。
DI INにベースを繋いで指弾きすると、同じく音が締まって粒立ちがよくなってすごく気持ちいいです。私、低音をトランスに通した質感にハマッてしまいそうです。。。ややレベルをツッコミ気味にすると歪み感が出てくるのですが、嫌味のまったくない粒子の細かなドライブ感でカッコいい。これ1ch仕様でコンパクトのプリアンプDI出してもらえないかなと思うくらいでした。
ISA Oneと比べてどうなん?
ちなみに、宅録向け1chプリアンプとしてコスパ最強説を欲しいままにしている(※当社調べ)、兄弟機のISA Oneと比べるとどうなの?という部分が気になる方もいらっしゃると思います。短時間ながら楽器店さんで試させてもらうことができました。
結論として、音質的には全く変わらないと言ってよさそうです。細かく測定すれば違うんでしょうけど、少なくとも私はISA OneとTwoの録り音をブラインドテストで聴かされてどっちがどっちなのか当てられる自信は全くないレベルでした。。。
絶対1chしか使わないという方はISA One、ステレオ録音や機器2台をプリアンプに通したり予備チャンネルがほしいという方はISA Twoという選択肢でよいと思います。
まとめ
既に宅録マイクプリアンプの定番の1つといっても過言じゃないISAシリーズ。
マイクとインピーダンス切り替えの組み合わせでかなり広い音色変化を持ち、それでいてどんなジャンルでも外さない安定感のある音色はさすがという感じ。宅録デモから本気のRECまでしっかり仕事をこなしてくれるので、長く使っていきたいなと思える1台です。
ちょっと頑張れば買えるお値段で一気に音のグレードアップができる機材なので、オールマイティなプリアンプが欲しい、どれ買ったらいいか分からないけどプリアンプ欲しいから失敗しない機種が欲しいという方はぜひ試してみてくださいね。