Amaterasのライントランスを使い始めてだいぶ経ちましたが。

シンプルだけど最強の隠し味!? ライントランス AMATERAS 0002 【レビュー】

それをきっかけにサミングによる音色変化が面白くなってきて、だんだん沼にハマっていくことになりました。
そのままサミングミキサーに行き着くのは必然だったのかもしれません。

というわけで、今回はサミングミキサーSPL MixdreamXPのレビューです。


概要

そもそもサミングミキサーとは

いわゆるミキサーといえば、マイクや楽器を繋いで音量バランスを調整し、最終的にステレオの2mixなどに音をまとめる機材です。

そんなミキサーの使い方の1つとして、ミキサーのアナログ回路を通ることで音が良い感じに太くなったり、音楽的に良い意味で滲むことで音同士のまとまりがよくなるという効果を狙って「EQやレベル調整はせず、ただミキサーに通すだけ」という方法があります。
特にビンテージミキサーなどはこういう使い方をされていることが多いのではないでしょうか。
もちろん、宅録用の安価なミキサーでも一度オーディオインターフェースからミキサーを通して音を取り込み直すだけで、そういった効果は十分実感できます。

ならば、マイクプリやフェーダー、
EQなど全部取っ払って、ただアナログ回路の音色変化を付与するためだけのミキサーがあればいいじゃん!という機能性に特化したのがサミングミキサーの発想です。

余計な機能をつけない分、必要な回路やパーツに最大限のコストが掛けられているので高品質なサウンドが期待できるうえ、調整機能があるとしても極限まで最小限に抑えられていて誤魔化しが利かないので、メーカーの”本気”を感じる製品が多いように思います。

特に最近はDAW上の内部バウンスで完結する傾向が多い中、アナログの質感を入れたいという需要も増えているようで人気が高まっています。

宅録だとミキサーを置くスペースもないし…という人でも、16chクラスであっても1~2Uでコンパクトに設置できてしまうのは魅力的ですよね。
流通している製品の数自体はそんなに多くありませんが、SSL、Neve(Rupert Neve Designs)、TUBE-TECHDangerous Musicなど名だたるハイエンドメーカーがサミングミキサーをリリースしていて、プロの世界でも重要な位置を占めている機材であることがわかります。

SPL Mixdreamとは

今回レビューする「SPL Mixdream XP」は、そんなサミングミキサーの中でも一番リーズナブルな価格帯の1台。
3040万越えが当たり前のサミングミキサー製品群の中、新品でも10万円台で入手できる数少ない1台です。

SPLはマスタリングで定番となっている超ハイエンドEQや機能豊富なモニターコントローラーで有名なメーカー。
宅録でもモニターコントローラ「
2control」や、手軽に倍音を付加して音を太くできる「Vitalizer」が有名ではないでしょうか。Plugin Allianceからプラグイン化もされていて人気機種になっています。
因みに上位機種「Mixdream」は40万円()する高級機で、サミング時にトランス経由のON/OFFができたりステレオエキスパンダーなどの付加機能があります。
サンレコのスタジオインタビュー等でも機材ラックの中によく映りこんでる定番機種ですね。
私は故・佐久間正英さんのスタジオレポートで、厳選されたラッキング機材の中に配置されている姿を見たのが印象的でした。

そんな「Mixdream」からサウンドはそのままに最小限の機能へ落とし込んでコストダウンされたのが「Mixdream XP」です。

仕様

チャンネルは奇数・偶数チャンネルでステレオペアの状態になっています。

モノラルソースを入力したい場合、前面のボタンを押すことでモノラルインプットに切り替えることができます。ボタンを押したステレオペアの定位が強制的に合算されてモノラルになる感じですね。ステレオソースをモノにした場合は5dBほど音量レベルが上がりました。

中央のツマミはモニターボリューム。
通常、
MAIN OUTは固定ボリュームなのですが、中央ツマミの隣にあるVariavle Outputボタンを押すことで-14dBから+ 7dBまでの範囲で制御することができるようになります。

レベルメーターやインプットLEDなどが全く無いので、万が一アサイン忘れや物理配線の抜けとかあっても実際の音で聞かないと分かりません。これだけは唯一不満なころです。音で判断しろ、という硬派な設計のようです()
心配な場合はソロ再生してちゃんと適正レベルでMixdreamを通過してきているか確認しましょう。

入力端子はD-sub15ピン。8chずつで入力が2系統に分かれています。
宅録ユーザにはD-sub入出力ってちょっと敷居が高いですよね。

D-subから先バラのケーブルは市販でもいくつかの種類が販売されていますので、それを買うのが手っ取り早いと思います。あと、スタジオ設備の引き上げ品や個人で自作したものなどがフリマやオークションで出品されている場合もありますので、それを狙うのも手かと思います。
相場的に
5千円から1万円くらいのあたりで取引されている印象です。

ちなみに私は…作りましたよ!! 丸一日かかりました!!  安く済ませようと思ってがんばったけど、D-subのハンダ付けとかもう2度とやらない!! よほどケーブル作り慣れてたりハンダ付けが楽しくて仕方ないっていう人でなければ素直に買った方がいいと思います。

出力はXLRのみ。オーディオインターフェースがフォン仕様の方は変換ケーブルを用意しましょう。
MAIN OUTとMONITOR OUTがありますが、パラレルで出力されていてどちらも同じものが出力されます。
回路の構成上、どちらかをアンバランス接続するともう片方のアウトプットもアンバランス送出になってしまうので、そのあたり気にされる方は気をつけましょう。

また、拡張機能として同じMixdreamPXをもう1台用意してExpansion Inputに接続することで入力チャンネル数を2倍にすることができるようになっています。

あと、ディスクリート回路のせいか、本体がけっこう熱くなります!
ラッキングするときは特に天板側のマージンをしっかりとっておいた方がよいです。


インプレッション

私は専らミックス最終段でトータルコンプ直前に通す使い方なので、その感想です。

私のオーディオI/Fは8ch出力なので、最終段階でミックストラックを8trのステムに分けてMixdreamXPに流し込み、2mixとしてDAWに取り込み直します。本当は16chに分けてやりたいんですけどね…16ch OUTできる宅録環境を組んでる方ってなかなかいないですよね。

この時、ステムの分け方として、私は大体「ボーカルもの」「上物」「リズム隊1(ベースとバスドラ)」「リズム隊2(ドラムその他)」という感じで振り分けることが多いです。
もしくは、「ボーカルもの」「上物1」「上物2」「リズム隊」。
このあたりのステムの振り方によってもサウンドは若干違ってくるかもしれません。

通した時の印象は、全体が平等に
Mixdreamの回路を通ることで「とにかく一気に音がまとまる」ということです。音がダマになるようなことはなく、ちゃんと分離感を残したまま音の隙間が埋められるような印象。
音の輪郭が滲むということもなく、倍音がナチュラルに引き出されてしっかりと絡み合う感じというのでしょうか。
隙間を透明なアクリルで固めて、良い意味で滲ませつつ強固な塊になったような感じです。

それならトータルコンプとかと一緒やんと言われそうですが、入力をマルチトラックで行う分、分離感は桁違いに良いです。高価なコンソールを通ったあとみたいな艶っぽさが付加されて綺麗に馴染む感じなので「
DAWで直接バウンスする」のと「トータルコンプなどでまとめる」のおいしいとこ取りですね。
音質傾向でいうと、あくまでナチュラルですがやや中域の押し出しが強い印象です。声の芯がある辺り。なので音がまとまると同時に力強い印象が加わる感じです。

加えて、通すことで音に立体感が出てきます。特に弦楽器やストリングス系の音色だったり、少し深めにかけたリバーブではその効果が顕著です。
音に良い感じで「陰影ができる」といった方がいいかもしれません。
ミックスの時にルームアンビエンスを混ぜているトラックは、そのルーム感がしっかり出てきてすごく気持ち良いサウンドになります。

とにかく、すごく安っぽい言い方で申し訳ないですが「プロの音」になります。

因みに、とある音源で「同じ素材の各ステムトラックをライントランスに通してDAWに戻してから内部バウンスしたら同じような効果が得られるのか」ということを実験してみました。
結果的に似たような変化は十分得られましたが、やっぱりMixdream XPのような絶妙な音のまとまりにはなりませんでした。そのあたりはやはり専用機ですね。

MixdreamXPamaterasのライントランスを重ねで使用すのも面白かったです。キレッキレでバキバキの音になります。このサウンド、洋楽で聴いたことある!っていう感じ。クラブ系のトラックやモダンなミクスチャーロックとかだとすごくカッコいいかもしれません。

尚、他の機材に漏れず、このMixdreamXPも電源は昇圧すると音の質感が一気に上がるので、昇圧電源がとれる or 昇圧トランスをお持ちの環境ならばぜひ試してみてください。

まとめ

価格帯が高いのでちょっと手を出しづらいサミングミキサーですが、その実力と効果は確かです。

おそらくサミングミキサーのことを調べているような方は既にありとあらゆるサウンドメイクを試された末に選択肢としてたどり着いている方だと思うので()、サウンドメイクのもう一押しの決め手としてぜひ検討されてみてはいかがでしょうか。

正直だいぶ高かったけど、私は買ってよかった!と心底思っています!!

SPL MixDream XP サミングミキサー
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