いろんな機材に触れていると、「決して使いやすいわけじゃないし、どちらかといえば使いづらいのに、手放せない」っていう不思議な魅力の機材に出会うことが度々あります。
今回は私にとってのそんな機材、コンデンサーマイクCAD GXL2200のレビューです。
目次
概要
CADは宅録界隈ではものすごく有名というわけではない知名度だと思いますが、アメリカで80年以上の歴史がある老舗メーカー。
元々は無線機器メーカーとしてスタートしたそうで、第二次世界大戦時には軍事用音響機器も製作していたというすごい歴史。その後は主に業務用プロオーディオ機器メーカーとして広く知られるようになりました。
放送業界の知り合いがCADの機材は好きだと仰っているのをちらほらと聞いたことがあります。
GXL2200は、そんなCADが販売しているマイクロフォンでも一番安いラインのエントリーモデル。
発売されたのが2010年代前半なので大手楽器店では販売を終了しているところも多いものの、amazonやフリマ等ではそこそこ流通があるようなので新品や状態の良い中古は比較的簡単に手に入ると思います。
私が持っているのは、外装が通常カラー(シルバー)からカスタムされたGXL2200BPというモデル。 外装がブラックパール(銀ピカ)になっている以外は通常モデルと全く同じものです。
仕様
指向性は単一指向固定。ローカットスイッチなどは付いていません。
ややずんぐりしたフォルムですが、大きさは大体RODE NT-1AやAudio TechnicaのATシリーズなどと同じくらいのオーソドックスなサイズ。デザインなども含め、「所謂コンデンサーマイク」と言われて誰もが思い浮かべるスタンダードそのままと思って間違いないかと。
重さはかなり軽いです。値段相応という感じ。(笑)
他のレビューを見ていると作りの荒さを指摘されているものをちらほら見かけますが、確かにお世辞にもガッチリ組まれた端正なマイクというわけではありません。私が購入した個体もマイク下部のカバーが緩んでいたので締め直しました。そのへんはご愛敬ですね。
インプレッション
主に女の子ボーカルさんの録音で結構な回数を使ったので、その総合的なインプレッションです。
結論をいうと、「決してファーストチョイスになるようなマイクではないけど、このマイクの音が驚くほどハマる曲がある。あと、このマイクじゃないとダメなシチュエーションがある」。そんなマイクです。
音質は比較的柔らかい感じで、ボーカルならば男性・女性ともに相性は気にしなくてよいと思いますが、女性ボーカルさんの方がハマりがよいかもしれません。
あまり張り上げる感じのニュアンスには向いてない雰囲気なので、ロックしか歌わないという方には微妙かもしれません。
マイク自体のゲインは高くも低くもなく。
吹かれに特別弱いということはなく、近接効果も耐音圧ほどほど平均的な印象。
この一通り「外さない」感じは、低価格帯とはいえしっかりとした設計がされているんだなと思います。
ここからは、私的にこのマイクを手放せない理由に入っていきます。
まず、音の解像度と奥行き。解像度は程々あるという印象で、他の1万円前後のマイクとあまり変わりません。
奥行感はほとんど無い感じで、わりと音が「面」で張り付いてくるイメージです。
そしてこのマイクの一番の特徴だと思っているのは、高域の音質。4khzくらいから上の帯域が、なんともいえない粒感というか、悪い言い方になるかもしれませんがシャリシャリというかした印象があります。
でも耳に痛い感じではないのです。高域がサラサラしてるといった方が近いのかな?
砂浜のやや粗目の砂粒のような、ちゃんと粒として認識できる感じはあるけど手触りは心地良いっていう、そういう感じなのです。
そして、あまり上に伸びる感じではなくて、10khz以上くらいはかなり抑えられるので音が丸くなる傾向があります。
これをマイクの音質を語るときによく言われる「シルキー」と表現していいのかは微妙なところで、あえて言うなら「どことなくハスキーな音質のマイク」というのが私的にはしっくりきます。…伝わりますかね?(笑)
ちなみに低域はあまりよく拾う感じではなく、どちらかといえばスッキリした感じ。ローカットをかけなくても元々かっているくらいの量感です。
なんだかこうやって書くとすごくクセが強くて使いづらいマイクの印象になると思いますが、このマイクがバッチリはまる時というのがあるんです。
ズバリ言うと、「電波ソング」や「キャラソン」的な楽曲。
音が「面」の感じで張り付いてきて、やや鼻にかかる帯域がいい感じの粒感をもって耳触り良いバランスに中和されるので、打ち込み系トラックを萌え声・アニメ声で歌ったり、それっぽい歌い方で歌ってもらうのに最適なマイクなんです。
実際、同人でキャラソン的な楽曲の歌を録音させてもらう時には登板率が一番高いマイクです。
解像度についてはマイクプリでかなり調整できるので、ISA Twoのインピーダンス変更で調整したりケーブルで空気感を調整したりしています。
このあたりの追従性が良いのは、最初試したときはちょっとびっくりしました。
また、付加効果で「鼻鳴り(仮)に強い」という特徴があります。
「鼻鳴り(仮)」というのは私が勝手に呼んでいる現象なのですが、電波ソングなどでやや鼻にかかった感じの発声で歌ってもらう時、歌声とは別に鼻の奥で空気が詰まるような「グゴゴッ」という感じの低くてくぐもった音が鳴る方がけっこういらっしゃいます。
これ、普段使っているAT4050などで録るとそのまま入ってしまうので後でizotope RXなどで手動除去をしています。
でもこのGXL2200を使うと、歌のおいしい帯域は良い感じにデフォルメされつつ、なぜか鼻鳴り(仮)が驚くほど軽減された音で録れるのです。
これはどういう理由なのか未だによく分かりません。。。
ダイヤフラムのマスキング特性なんだと思いますが…。
そんなこんなで、この鼻鳴り(仮)を抑えつつ張り付いた感じの音で録りたい時にはベストチョイスなマイクというわけです。これが「このマイクの音が驚くほどハマる曲がある。あと、このマイクじゃないとダメなシチュエーションがある」ということの所以です。
まとめ
色々書いたもの、シビアなレコーディングクオリティでなければこの価格帯としては十分優秀で、男女問わずトークなどに使えば適度にやさしい音になってかなりいい感じの音になると思いますし、アコギなどでもマイクアレンジの調整だけでエフェクト無しでもかなり音を作りこめるのではないでしょうか。
いい意味でEQ処理された後のような音になるので、そういう意味でも宅録で気軽に録るためのマイクとして使いやすいかもしれませんね。
そんなわけで、私はこのマイクは壊れるまでずっと所持し続けるんだろうなと思います。
ご興味の沸いた方、流通と取扱状況を考えると楽器店の店頭で試聴などは難しいかもしれませんが、中古品やデッドストック品ならかなり手を出しやすい価格帯で販売されているマイクだと思いますのでぜひ試してみてくださいね。
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